2023年10月12日木曜日

茎枯病の対策について②

 4.露地の対策

今回、書きたいことのメインです。

いつが一番重要な防除のタイミングかと言うと、断然立茎期です。
それも、初期も初期、収穫を打ち切る時が一番大事です。

露地アスパラが春に全然出てこない、という相談のほとんどは、
前年の養分転流がうまく行かなかったからで、
その原因は病気であることがほとんどです。

主に北海道の露地アスパラの病気の中でも一番恐ろしいのが、茎枯病、
次に疫病、次に褐斑病と斑点病です。
その茎枯病のほとんどが、立茎期に罹病しています。

なぜか。

それは、最も降雨による泥はねの影響を受ける時期だからです。
露地アスパラは、春の収穫時は土がむき出しの状態です。
その状態で雨が降ると、アスパラは土壌からの泥水を被ることになります。
春なので緊密度が夏ほど高くないものの、柔らかい若茎は、
病気の菌が入りやすいため、罹病確率が高くなります。

当農園では、立茎から3週間雨が降らなかった時には、
ほぼ罹病がありませんでした。
ですから、雨がこの先2週間は降らない時に立茎すると、罹病はグッと減ります。
しかし、露地アスパラではそれはあまりに運任せ。
アスパラの残りの養分を考えて立茎を開始するので、
天気を待ち続けていると、立茎適期を逃すことになります。
アスパラの生育と天候の両方を見ながらの管理作業になりますが、
最後は天候ではなくアスパラの生育を見るべきでしょう。

一方で、立茎開始時は、土をいじったり消毒したりできるため、
最も防除しやすい時期とも言えます。
耕種的な対策としては、アスパラの畝の土を高くすることで、
倒伏防止とともに、病気への抵抗性が上がると実証データがあります。
また、表土を消石灰で消毒する、堆肥マルチで表土を覆う、
防草シートで泥水の跳ね返りを減らすなどがあります。
いずれも、土が乾いている状態で、かつ、アスパラに傷がつかない状態で
立茎することが大前提となりますが、理屈上は効果が上がるはずです。

当農園では、露地は草対策や排水対策で畝に培土をします。
培土作業で土着している菌がアスパラにつくので、
培土がかかった茎は培土も5日くらい収穫することによって
圃場の外に持ち出してます。
その後、表土をカニ殻由来の微生物資材やイオン的な殺菌剤や、化学殺菌剤を散布し、
雨が降らないことを祈りつつ、雨が降っても少しでも罹病株が減らせるように対策をします。
降雨による茎枯菌の繁殖スピードは猛烈です。
立茎期は、降雨ごとに微生物資材をまいたり土壌殺菌することが必須です。

そして2週間もすると、繁茂してくるアスパラによって表土が覆われていきます。
このあとは、アスパラも表土を邪魔するので、表土に何かをするのが難しくなります。
そして、日陰になるために、これまでよりも土が乾く状態もできにくくなります。
そうすると、病原菌が繁殖しやすい環境になってしまうので、できることが減ります。

途中で発病株があれば、断腸の思いで切って、持ち出しましょう。
この段階での発病は、アスパラにも土にも何も良いことはありません。
無駄に根の養分だけ使って、茂ってから枯れるくらいなら、この時に切って、
次の芽に養分を使ってもらう方が有効です。

無事に立茎が整ってからは、表土が乾きにくいため、なかなか殺菌しにくいです。
その上、夏芽が出てきたり、2次擬葉とともに下枝も出てくるので、
罹病する機会が多くなってしまうのです。
ですが、この先の罹病では、発病が9月になるので、
大幅減収になるほどのダメージは受けにくいのです。
露地なので、見切りや諦めも肝心だと思います。
ただ、病気の進行スピードは、高温多湿であるほど速いので、
降雨ごとに監視と殺菌は必要になります。

2017年に経験しました、8月上旬でアスパラが枯れてしまったらどうするか。
養分転流が行われないので、翌春には根に養分がほとんどないです。
ですから、春アスパラを収穫せずに、しっかりと茎枯病対策をして、
すぐに立茎しましょう。その翌年のために。
1年無駄にすると思うかもしれませんが、無理して収穫するとその先10年を無駄にします。
春一番で立茎することは、北海道では地温が上がっていないので
菌も活性化しておらず、罹病リスクが低いです。
きちんと立茎して、来年に備えましょう。

経験では、4年間消石灰散布を行いましたが、期待するような殺菌効果はなさそうです。
菌をどうやって抑えるかを考えると、表土をどうするか、が大事です。
農薬のみに頼っても限界ありますので、
その土壌にあった菌や微生物の資材も探す必要があるかもしれません。
また、9月になって気温が下がると、他の病気も併発します。
肥料切れは体力が落ちる原因にもなりますので、旺盛に育てたアスパラは、
きちんと栄養も補給してあげてください。
大きな収量を狙わないなら、少ない栄養で春を迎えることも、
実は良い栽培だと思います。味も面白いです。
アスパラ農家としての収量みたいなものを漠然とした基準として書いてきましたが、
少量肥料栽培についても、ある程度認知があるので、それはおいおい書きます。

また、対策は、毎年毎年やります。
1年でもサボると、あっという間に経営危機になると思って対策してください。
九州であっという間に露地アスパラがなくなった30年前を考えればわかるはずです。

うまく行くと、9月でもう来年が楽しみになりますし、
うまくいかないと、8月で来年の減収減益が決まってしまって悲しい。
それが露地アスパラだと思います。



5.今後の展望、良いこと、悪いこと


わかっているっぽいことを書いてきましたが、
まだまだわからないことが多い茎枯病です。
露地アスパラにこだわらなければ、もっと気楽に作れるかもしれません。
それでも、トライ&エラーを繰り返して、失敗しながらも上手く行くことができたら、
ある程度の達成感と、一時の安心は得られます。
これで路頭に迷わなくて済むかな、と。
露地アスパラが30年前みたいに上手く作れるなら、
もっと色々な作り方をしたいし、味や形も楽しんで作っていけます。
そうしたら、もっと食べる人が楽しめるアスパラに取り組めると思ってます。
そうなれたらいいな、とずっと思ってます。

でも、ずっと不安は消えません。

ある地域で何かの障害への対策が整って、これでイケル、となっても
大体5年くらいですね。10年以内には別の障害が発生しています。

病原菌自体が抵抗性を持ったり、もっと恐ろしい病気がはやったり、
可能性は無限にあります。
農業は人間が自然をコントロールした気になっているのですが、
同じものばかりが生えているという超不自然を作っているので、
どんな障害が出てきてもおかしくないと覚悟はしてます。
経営的な不安も、ずっと抱えてます。
大きな組織ではないものの、たくさんの人に関わっていただいてます。
その人たちの役に立ち続けることができるように、仕事してます。

2017年の大きな経営危機をとりあえず乗り越えた今、
同じように露地アスパラのことで経営に困っている人の役に
少しでも立てたら幸いです。

2023年10月6日金曜日

茎枯病の対策について①

2017年7月に、定植して3年目の3haのアスパラ畑全てが茎枯病にかかるという、
絶望的な状況から7年。
できる様々な対策を行なってきたので、実施したことと、結果を公表します。

目次
1.茎枯病とは
2.罹病と発病
3.ハウスの対策
4.露地の対策
5.今後の展望、良いこと、悪いこと


1.茎枯病とは

そもそも茎枯病とは、ということは割愛します。

生産者がほとんどだと思うし、生産者しか興味ないと思うので。
あの茎から枯れていく絶望的な姿を、かなり多くの人が目にしていると思います。
斑点病や灰カビ病のように、繁茂している擬葉からの病気なら、
対策は蒸れないようにすることを考えれば良いので、
それほど難しくないですよね。

茎枯病で枯れることで、株が腐ってしまいますし、
せっかく繁茂して翌年の養分になるべき親木の栄養分が根に戻ることができず、
春アスパラの収穫が激減します。

全国的には、茎枯病対策は「ハウス栽培にする」ということで、
ほぼ完了していると言ってもいいですね。
主要産地は「ハウス栽培」になることで病気が減っています。

北海道では、いまだに露地アスパラの産地が多いです。
それは、耕地面積がたくさんあることと、
ハウスを作るメリットが本州に比べて少ないことがあります。

うちやま農園では、美味しい最高のアスパラは露路でできる、
ということに確信があるので、露路アスパラをつくり続けています。

だから、茎枯病とどう付き合うかは、うちやま農園が
生き残れるかどうかと直結していると覚悟してます。


2.罹病と発病

罹病する(病気にかかる)タイミングは、ズバリ、地際から若茎が伸びている時と、
鱗片から若枝が出る時、です。

若枝が出るタイミングはほぼ毎日と言っていいですし、
致命的なダメージを与えるタイミングでの罹病は若茎なので、
若茎に対する対策がメインと言えます。

ご存知かもしれませんが、一般的に茎枯病の罹病から発病までの期間は、
1ヶ月と言われています。

若茎に罹病し、擬葉展開し始めた頃に発病する。
発病時は茎に病斑がみえるのですが、遠くから眺めていても発見できず、
畑の中を歩いて収穫するくらい近くにいないと見えません。
だから、大体発見するのが、発病から2週間か1ヶ月くらいたって、
親木自体が枯れてくる時なのです。

知らない人は、発病した時に騒ぎ始めるので、
実はその1ヶ月か2ヶ月前にはすでに罹病している状況です。

どうやって罹病するか。
茎枯れの菌は、実は飛散してますし、ほとんどは土に居着いています。
それが主に雨で増殖・活性化して、アスパラにつきます。
若茎は柔らかいので、表皮から菌の侵入を許しやすいのです。

先述の通り、病斑はすぐに現れないため、何ら問題ない成長に見えますが。
罹病から発病までの期間は、実は春の罹病と夏の罹病では発病までの時間が違い、
夏の茎枯菌が活性化している時には、数日で発病します。
若枝は夏に旺盛に出ますから、土着菌が多い時には、諦めるしかない場合もあります。
若茎であれば、夏に若茎アスパラを収穫することが、防除も兼ねるのです。

発病と罹病の関係をよくわかっていないと、
そもそも茎枯病の対策なんてできないことはお分かりいただけたでしょうか。

皆様が気付いているのは、どの段階なのか。
罹病後にいくら殺菌剤をかけても無駄です。
はっきり言えます。無駄です。
進行が早いのと、病気の根が深いので、改善することはあり得ません。
少し、進行が遅くなることは、期待できなくもないですが、
対策とは、ほぼ予防なのです。

この先は予防の話になりますので、発病後のことは、ここで少し触れます。

基本的には、発病株は抜いて圃場外に持ち出します。
病原菌の繁殖も早いですし、土着して3年くらい越冬もできますので、
発病株は持ち出しましょう。
そして、発病した株の付近は、地面と茎の残渣を焼却します。
そこまでしても菌は無くなりませんが、少なく維持することはできます。
発病後も栽培を継続したいなら、治すことは諦めて、
茎枯菌を増やさないことを考えましょう。



3.ハウスの対策

では、具体的に、事例を紹介します。

ハウス内で気をつけることは2つ。
潅水による泥の跳ね上がりを抑えることと、
発病株の持ち出し、です。

潅水に関しては、水圧を変更することで調節できます。
病気対策で点滴チューブを利用する方もいるかもしれませんが、
水分量が見た目でわかりにくいことと、
水は縦浸透しかしないことが招く結果を考えると、
できればスミチューブなどでの潅水が良いですね。

病気にかかってしまった株は、全て持ち出しましょう。
そして、防除は株元までかかる防除機で、
土も殺菌できると効果的です。
泥の跳ね上がりはある程度防げても、
表土に菌が生きていると罹病してしまいます。

これだけ?
そうです。

そもそも茎枯病の多くの原因は降雨による泥の跳ね上がりです。
それを防ぐハウス被覆は、それだけで茎枯病の対策がほぼできています。

それでも何らかの要因で菌が入り込んで、
罹病してしまっている時には、上記の対策が有効と思われます。
菌の活動を抑えつつ、生育を旺盛に保つことを3年くらい手間かけてあげれば、
ほぼ発病しなくなります。

当農園では、定植初年度に発病が見られた時、
もしくは途中で発病が見られた時に、上記対策を取ります。
そうすると、茎枯病を発病する株は、90%くらい減できるので、
3年くらいやるとほぼゼロになります。

その際に、堆肥やカニ殻を散布してキチンやキトサンを効かせることで、
さらにその効果が大きいと言われています。
うちもたまに与えます。


ここまででずいぶん長くなりました。
一旦終了して、次回、露地の対策から書きます。